オンライン授業・ウェビナーで受講者同士の学び合いを促進する:共同学習・ピアラーニングの実践ガイド
オンライン教育や研修において、講師から受講者へ一方的に知識を伝達するだけでなく、受講者同士が互いに学び合う機会を設けることは、学習効果を高める上で非常に重要です。オンライン環境でも、このような共同学習(Collaborative Learning)やピアラーニング(Peer Learning)は十分に実現可能です。本稿では、オンライン授業やウェビナーで受講者間の学び合いを促進するための設計の考え方や具体的な実践方法について解説いたします。
オンライン環境における共同学習・ピアラーニングの意義
共同学習とは、複数の学習者が共通の課題解決や目標達成を目指して協力的に学ぶ形態を指します。また、ピアラーニングは、同等の立場である学習者同士が互いに教え合ったり、学び合ったりする活動です。
オンライン環境でこれらの学習形態を取り入れることには、以下のような意義があります。
- 学習内容の深い理解: 他者に説明したり、異なる視点に触れたりすることで、自身の理解をより深めることができます。
- 能動的な学習の促進: 一方的な受講形式に比べ、主体的に考え、発言し、協力する機会が増えるため、学習への積極性が高まります。
- 孤立感の軽減とコミュニティ形成: オンライン環境では孤独を感じやすい受講者も少なくありません。共同作業を通じて他の受講者と交流することで、連帯感が生まれ、学習継続のモチベーション維持に繋がります。
- 多様な視点と問題解決能力の育成: グループ内で様々な意見や考え方に触れることは、視野を広げ、複雑な問題に対する多角的なアプローチを学ぶ機会となります。
これらの意義を踏まえ、オンラインでの共同学習・ピアラーニングを効果的に設計することが重要です。
オンラインでの共同学習・ピアラーニングの設計原則
オンラインで受講者同士の学び合いを促すためには、事前の綿密な設計が不可欠です。以下の原則を考慮して計画を立てましょう。
1. 共同学習・ピアラーニングの目的を明確にする
その活動を通じて受講者に何を学んでほしいのか、どのようなスキルや知識を習得してほしいのか、具体的な目標を設定します。単に時間を埋めるのではなく、「この共同作業を通じて〇〇を理解する」「××のスキルを習得する」といった明確な学習目標を設定することで、活動内容がおのずと定まります。
2. グループ分けの考え方
多くのオンラインツールにはブレイクアウトルーム機能があり、受講者を少人数のグループに分けることができます。 グループのサイズは、活動内容によって適切に調整します。例えば、全員が発言しやすいディスカッションであれば3〜5名程度、共同で資料を作成する場合は役割分担を考慮して4〜6名程度が一般的です。 グループの構成についても、ランダム、成績順、特定の属性(経験、背景知識など)を考慮するなど、学習目標に合わせて検討が必要です。例えば、多様な視点を促したい場合はランダムまたは意図的に異なる背景の受講者を組み合わせる、特定のスキルの習得を目指す場合は習熟度に合わせたグループ分けなどが考えられます。
3. 課題設定の工夫
グループで取り組む課題は、共同作業が自然に発生するような内容にすることが重要です。個人で完結できてしまう課題では、共同学習のメリットが活かされません。 例: * 特定のテーマについてグループで議論し、結論や要約をまとめる。 * 与えられたケーススタディについて、解決策を複数出し合い、最適なものを一つ選んでその理由を説明する。 * 指定されたトピックに関する情報を各自が収集し、グループで共有の資料や発表を作成する。 * 互いのレポートや成果物について、建設的なフィードバックを交換する(ピアレビュー)。
課題を提示する際は、目的、作業手順、最終的な成果物(何をどこに提出・発表するのか)、時間配分などを明確に伝えます。
4. 使用ツールの選定と準備
共同学習・ピアラーニングをオンラインで行うためには、適切なツールの選定と、受講者がツールを使えるようにするための準備が必要です。 主なツールとしては、以下が挙げられます。
- ビデオ会議システムのブレイクアウトルーム機能: 少人数での音声・ビデオ通話、画面共有が可能。議論や打ち合わせに最適です。(例: Zoom, Microsoft Teams, Google Meetなど)
- 共有ドキュメント/スプレッドシート/スライド: グループで共同でテキストを編集したり、アイデアをまとめたり、資料を作成したりするのに便利です。(例: Google Docs/Sheets/Slides, Microsoft 365のオンライン機能など)
- オンラインホワイトボード: アイデアを書き出したり、図を描いたり、情報を視覚的に整理したりするのに役立ちます。(例: Miro, Mural, Zoom/Teams/Meetの内蔵ホワイトボード機能など)
- オンライン投票/アンケートツール: グループ内で意見をまとめたり、意思決定をしたりする際に補助的に使用できます。(例: Slido, Mentimeter, 各ビデオ会議システムの内蔵機能など)
これらのツールについて、事前に受講者に使い方を簡単に説明したり、操作に不安がある場合は簡単な練習機会を設けたりすると、スムーズな活動につながります。
実践編:具体的なアクティビティ例と進行
設計に基づいて、具体的な活動を進行します。ここではいくつかのアクティビティ例と進行のポイントをご紹介します。
1. グループディスカッション
最も基本的な共同学習の形態です。
- 準備: ディスカッションのテーマや問いを明確に提示します。必要に応じて、事前に予習や資料参照を指示します。
- 進行:
- 全体セッションで、ディスカッションの目的、テーマ、時間配分、最終的に何を報告・発表するのかを説明します。
- ブレイクアウトルーム機能でグループに分かれます。自動割り当て機能を使うと手軽です。
- 各グループは指定された時間内で議論を行います。講師は必要に応じてブレイクアウトルームを巡回し、進捗を確認したり、質問に答えたり、議論が滞っているグループに声かけを行ったりします。
- 指定時間になったら全体セッションに戻ります。
- 各グループから議論の要点や結論などを発表してもらいます。発表形式は、代表者による口頭発表、共有ドキュメントへの書き込み、オンラインホワイトボードへのまとめなど、事前に指定しておきます。
- 全体で共有された内容について、講師が補足したり、異なる意見を整理したりして、学びを統合します。
2. 共同資料作成
グループで一つの成果物を作成する活動です。
- 準備: どのような資料を作成するのか(レポート、プレゼン資料、まとめシートなど)、使用するツール(共有ドキュメントなど)を指定し、テンプレートなどを用意することもあります。
- 進行:
- 全体セッションで、課題内容、作成する資料の形式、使用ツール、役割分担の推奨、時間配分などを説明します。共同編集ツールのURLやアクセス方法を共有します。
- ブレイクアウトルームでグループに分かれます。
- 各グループはブレイクアウトルームで打ち合わせながら、共有ツール上で共同作業を行います。役割分担(情報収集担当、執筆担当、構成担当など)を促すと効率的です。
- 講師は必要に応じてグループの活動状況を共有ツール上で確認したり、ブレイクアウトルームを訪問したりしてサポートします。
- 指定時間になったら全体セッションに戻り、作成した資料を共有または発表します。
- 講師や他の受講者からフィードバックを行う機会を設けることも有効です。
3. ピアレビュー
受講者同士が互いの成果物(レポート、発表練習など)を評価し合う活動です。
- 準備: レビュー対象となる成果物を事前に提出してもらいます。評価の観点や基準(ルーブリックなど)を明確に提示します。レビューに使用するツール(共有ドキュメントへのコメント、専用のレビューシステムなど)を指定します。
- 進行:
- 全体セッションで、ピアレビューの目的、評価観点、手順、提出方法などを説明します。
- グループに分けるか、ペアを組みます。
- 各自がレビュー対象の成果物を確認し、指定された観点に基づいてフィードバックを作成します。フィードバックは具体的に、改善点を指摘する際は代替案や理由も添えるように促します。
- 必要に応じて、ブレイクアウトルーム内で互いのフィードバックについて話し合う時間を設けます。
- フィードバックを提出・共有し、自身の成果物の改善に活かします。
これらのアクティビティは、授業や研修の目的、内容、受講者のレベルに合わせて適切に組み合わせ、時間を設定することが重要です。
共同学習・ピアラーニングを成功させるためのファシリテーションのポイント
オンラインでの共同学習では、講師のファシリテーション(学習促進の働きかけ)が成功の鍵を握ります。
- 事前の準備と説明: 活動の目的、手順、使用ツール、期待する成果物を明確に、丁寧に説明します。特にツールに不慣れな受講者がいることを想定し、操作方法の簡単なガイダンスや練習時間を設けることが望ましいです。
- 役割分担や時間管理の促し: グループ内で円滑に活動が進むよう、リーダーや書記といった役割分担を提案したり、時間配分に気を配るよう促したりします。ブレイクアウトルームの残り時間を全体に通知する機能などを活用します。
- 積極的な巡回と声かけ: ブレイクアウトルーム機能を活用して各グループの様子を定期的に確認します。議論が停滞していたり、困っている様子のグループには積極的に声かけを行い、ヒントを与えたり、質問に答えたりして、活動を軌道に乗せるサポートをします。ただし、グループ内の自治を尊重し、介入しすぎないバランス感覚も重要です。
- 成果発表・共有の設計: グループでの活動成果を全体で共有する時間を必ず設けます。これにより、他のグループの学びから刺激を受けたり、講師が重要な点を補足したりすることができます。共有された内容を全体で振り返り、活動を通じて得られた学びを統合します。
- 困りごとへの対応: グループ内の意見対立、特定メンバーの発言の偏り、ツールの技術的な問題など、様々な困りごとが発生する可能性があります。事前に想定されるトラブルへの対処法を準備しておくとともに、問題が発生した際は冷静に状況を聞き取り、解決に向けたサポートを行います。特に技術的な問題については、受講者側での対応が難しい場合もあるため、切り分けや代替手段の提示ができると親切です。
注意点と課題
オンラインでの共同学習・ピアラーニングには多くのメリットがありますが、いくつかの注意点と課題も存在します。
- 参加格差: オンライン環境へのアクセス状況、デバイスの性能、ツールの習熟度、コミュニケーション能力などによって、活動への参加度合いに差が出ることがあります。全員が安心して参加できるよう、可能な限り環境を整え、ツールの使い方を丁寧に説明し、心理的な安全性に配慮することが重要です。
- 評価方法: 共同作業の成果をどのように評価するかは検討が必要です。グループ全体の成果だけでなく、個人の貢献度をどう把握し評価に反映させるか、といった点について、活動の前に受講者に明確に伝えておくことが望ましいです。
- 時間管理の難しさ: オンラインでのグループ活動は、対面よりもコミュニケーションに時間がかかる場合があります。また、ツールの操作などで予期せぬ遅延が生じる可能性もあります。計画段階で余裕を持った時間設定を行うとともに、進行中に柔軟な時間調整を行う準備をしておくことが大切です。
結論
オンライン授業やウェビナーにおける共同学習・ピアラーニングは、受講者の能動的な学びを促し、深い理解とスキル習得に繋がる有効な手法です。事前の丁寧な設計、適切なツールの活用、そして講師によるきめ細やかなファシリテーションが成功の鍵となります。
最初は小規模な活動から始めてみたり、受講者のフィードバックを収集しながら改善を重ねたりすることで、オンライン環境ならではの学び合いの場を創造していくことができるでしょう。ぜひ本稿を参考に、オンラインでの共同学習・ピアラーニングに挑戦してみてください。