オンライン授業・ウェビナーで知っておくべき著作権の基礎知識と注意点
オンライン教育や研修が一般化する中で、動画、画像、音声、テキストなど、多様なコンテンツを授業やウェビナーで使用する機会が増えています。これらのコンテンツには、原則として著作権が存在しており、その利用には注意が必要です。著作権を理解し、適切に対応することは、質の高い教育・研修を提供するために欠かせないだけでなく、法的なトラブルを避けるためにも非常に重要です。
この記事では、オンライン授業やウェビナーを実施する上で知っておくべき著作権の基本的な考え方と、具体的なコンテンツ利用における注意点について解説いたします。著作権と聞くと難しく感じるかもしれませんが、教育目的での利用に関する特別なルールも含め、分かりやすくご説明しますので、安心して読み進めていただければ幸いです。
著作権とは?オンライン教育・研修との関連性
著作権とは、「思想または感情を創作的に表現したもの」(著作物)に対して与えられる、著作者の権利のことです。著作権法によって保護され、著作物の無断での複製、公衆送信(インターネットを通じて送信すること)、展示、改変などは、原則として著作権侵害にあたります。
オンライン授業やウェビナーでは、PDF資料の配布、動画や画像の提示、Webサイトの参照、BGMの使用など、さまざまな形で著作物を利用する機会があります。これらの行為が著作権侵害とならないためには、著作権者の許諾を得るか、著作権法で定められた例外規定(許可なく利用できる場合)に該当する必要があります。
特に、オンラインでの「公衆送信」は、インターネットを通じて不特定または特定の人が著作物にアクセスできる状態にする行為であり、著作権の中でも重要な要素となります。ライブ配信もオンデマンド配信も、この公衆送信に該当します。
教育目的のための著作権法改正(35条)
日本の著作権法には、教育を目的とした著作物の利用に関する特別な定めがあります。特に重要なのが著作権法第35条です。この条文は、学校その他の教育機関において、授業の過程で使用することを目的とする場合に、必要と認められる限度で著作物を複製または公衆送信できるというものです。
2020年には、オンライン授業の普及に対応するため、この35条が改正・施行されました。これにより、授業目的であれば、対面授業だけでなくオンライン授業においても、予習・復習のために学生に資料を配信するなど、一定の範囲で著作物を権利者の許諾なく公衆送信することが可能になりました。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 利用は「授業の過程」に限定される: あくまで教育機関における授業での利用が目的です。営利目的のウェビナーなどには原則として適用されません。
- 「必要と認められる限度」であること: 著作物の全部を安易に利用するのではなく、授業を行う上で必要最小限の範囲での利用に留める必要があります。
- 「適切な出所の表示」を行うこと: 利用した著作物について、書名、著者名、出版社名などを可能な限り表示する必要があります。
- 補償金の支払い: 改正著作権法第35条に基づく無許諾での利用には、教育機関設置者が指定管理団体(授業目的公衆送信補償金等管理協会:SARTRAS)に補償金を支払うことが義務付けられています。これは、教育機関側が包括的に支払うものであり、個々の教員や受講者が直接支払うものではありません。
この改正によりオンライン授業での著作物利用は柔軟になりましたが、無制限に何でも利用できるわけではないことを理解しておくことが大切です。
具体的なケース別:オンライン授業・ウェビナーでの注意点
ここでは、具体的なコンテンツの種類ごとに、オンライン授業やウェビナーで利用する際の著作権上の注意点を解説します。
1. 書籍、雑誌、論文などの文字情報
- 資料としての配布: 書籍の一部や論文などをスキャンしてPDF化し、オンライン授業の参加者に配布する場合、前述の著作権法第35条の要件を満たせば、許諾なく利用できる場合があります。しかし、必要最小限の範囲にとどめ、必ず出所を表示してください。書籍まるごとのスキャンや、授業目的以外での配布は著作権侵害となります。
- 画面上での提示: 画面共有で書籍や論文の一部を表示する場合も、35条の範囲内と考えられますが、提示する範囲と時間には配慮が必要です。
2. 画像、写真、イラスト
- インターネット上の画像: Webサイトで見つけた画像を、許諾なく授業資料に貼り付けたり、画面共有で見せたりすることは著作権侵害にあたる可能性が高いです。安易な利用は避けましょう。
- 教科書や参考書の画像: 教科書などに掲載されている画像も著作物です。これも35条の範囲内での利用が考えられますが、必要最小限に留め、出所表示を徹底してください。
- 解決策:
- 著作権フリー素材の利用: 商用利用や改変が可能な無料・有料の画像素材サイトを利用しましょう。ただし、サイトごとの利用規約を必ず確認してください。
- クリエイティブ・コモンズライセンス付きコンテンツ: CCライセンスが付与されたコンテンツは、そのライセンス条件(表示、非営利、改変禁止など)を守れば利用可能です。FlickrやWikimedia Commonsなどで探せます。
- 引用: 著作権法上の「引用」の要件(後述)を満たせば利用できます。
3. 動画、音声、音楽(BGM)
- 市販のDVD/Blu-ray、配信サービスの動画: これらをオンライン授業で全部または大部分を流すことは、著作権侵害となります。教育機関での利用に関する特別措置がある場合もありますが、限定的です。
- YouTubeなどの動画: YouTubeなどの動画共有サイトの動画は、通常、そのサイトの埋め込み機能や共有機能を利用してリンクを示す形であれば問題ありません。ダウンロードして再配布したり、許可なく自分の動画に組み込んだりすることは著作権侵害です。
- 音楽(BGM、挿入歌など): 授業やウェビナーの冒頭・終わりにBGMを流したり、動画に音楽を挿入したりする場合、その音楽にも著作権があります。市販のCD音源やJASRACなどが管理する楽曲を無許諾で利用すると侵害となります。
- 解決策:
- 著作権フリーの音楽・効果音: 許諾なく利用できる無料・有料の素材サイトを利用しましょう。
- YouTubeオーディオライブラリ: YouTubeの動画作成に限り、著作権フリーの音源を利用できます。
- 公表権、氏名表示権、同一性保持権: 音楽に限らず、著作物には著作者の人格に関わる権利(著作者人格権)もあります。勝手に改変したり、著作者名を偽ったりすることは避ける必要があります。
4. Webサイト、ブログ
- 画面共有: Webサイトを画面共有して参照することは問題ありません。
- 内容のコピー&ペースト: Webサイト上の文章や画像をコピーして自分の資料に貼り付ける場合は、画像と同様の注意が必要です。適切な「引用」の範囲を超えないようにしましょう。
- リンク: Webサイトへのリンクを示すことは、原則として著作権侵害になりません。
著作権法上の「引用」とは
著作権法では、公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の目的上正当な範囲内であれば、「引用」として著作物の一部を許諾なく利用することが認められています(著作権法第32条)。オンライン授業資料での引用もこれに含まれますが、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 引用の必然性: 自分の著作物の中に、引用する著作物を含める必然性があること。
- 主従関係の明確化: 自分の著作物(主)と、引用する著作物(従)が明確に区別され、自分の著作物が主体となっていること。引用部分が量的に自分の記述より多くなるなど、主従が逆転していないこと。
- カギ括弧等の利用: 引用部分をカギ括弧などで囲むなど、本文と明確に区別できること。
- 出所の表示: 引用元の著作物のタイトル、著者名、出版社名、URLなどを明記すること。
これらの要件をすべて満たさない場合は、適切な引用とは認められず、著作権侵害となる可能性があります。
著作権侵害のリスクと対処法
オンライン授業やウェビナーでの著作権侵害は、意図的でなくても発生する可能性があります。侵害が判明した場合、著作権者から差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。特に、教育機関という立場上、コンプライアンス遵守の意識は非常に重要です。
- トラブルを防ぐために意識すべきこと:
- 「インターネット上にあるものは自由に使って良い」という考えは誤りです。
- 他者の著作物を利用する場合は、原則として許諾が必要であることを常に意識しましょう。
- 無許諾で利用できる例外規定(35条、引用など)は限定的であり、その要件を正確に理解しましょう。
- 利用したい著作物について、著作権フリー素材やCCライセンス付きコンテンツで代替できないか検討しましょう。
- 必ず適切な出所表示を行いましょう。
- 不明な点がある場合は、安易な利用は避け、大学の著作権担当部署や専門家、著作権管理団体に相談しましょう。
まとめ
オンライン授業やウェビナーにおける著作権への理解は、円滑かつ適法な教育活動のために不可欠です。著作権法第35条の改正により、教育機関におけるオンライン授業での著作物利用は緩和されましたが、それでも無制限ではありません。「必要最小限の利用」「適切な出所表示」といった基本ルールを守ることが重要です。
使用したいコンテンツがある場合は、まずそれが著作物であるかを認識し、次に教育目的での利用の例外規定に該当するか、適切な引用の要件を満たすかを確認します。これらに該当しない場合は、著作権フリー素材の利用や、著作権者への許諾申請を検討する必要があります。
著作権に関する知識を深め、日頃から意識することで、安心して質の高いオンライン教育・研修を提供できるようになるでしょう。